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予期せぬ障害を防ぐ「カオスエンジニアリング」とは?クラウドでの実現方法を解説
IT やクラウド技術の進展がビジネス環境を激変させています。システムの複雑性が増す一方で、高い可用性と効率性が求められています。
その中で、システムの耐障害性を高める手法として注目を集めているのが「カオスエンジニアリング」です。カオスエンジニアリングは、システムに意図的な障害を発生させて、問題点を見つけ出し、改善する方法です。
このカオスエンジニアリングを支える製品の一つがマイクロソフトの「 Azure Chaos Studio 」です。本記事では、カオスエンジニアリングと Azure Chaos Studio の概要から利用シーンまでをわかりやすく解説します。
1. カオスエンジニアリングとは
システムには想定していないトラブルや障害が起こる可能性があります。カオスエンジニアリングはそうした問題を未然に防ぐ有効な手段です。まず、カオスエンジニアリングの概要と重要性について解説します。
カオスエンジニアリングの概要

カオスエンジニアリングは、システムの耐障害性をテストし、向上させる手法です。その名称はカオス(混沌)が示す通り、システムにさまざまな障害を故意に発生させることで、問題点を見つけ出すというものです。
しかし、無秩序・無計画なテストを行うのではなく、カオスエンジニアリングはむしろ明確な原則に従って慎重に実施されます。
下記は Netflix によって提唱されたカオスエンジニアリングの原則(※)です。
1. 定常状態の振る舞いについて仮説を立てる
さまざまな指標を基にシステムが正常に機能しているときの状態を確認し、それを基準としてシステムが正常に動作することを検証する
2.現実世界の事象は多様である
システムの定常状態を壊す可能性のある事象は多様であるため、発生時の影響度や頻度を考慮して優先順位を付けて検証する
3.本番環境で実験を実施する
システムは環境やトラフィックパターンによって異なる振る舞いをするため、シミュレーションではなく、実際の本番環境でカオスエンジニアリングの実験を行う
4.実験は自動化して継続的に実施する
手作業は労力がかかるため、実験は自動化して定期的に実行する
5.被害範囲を最小に抑える
本番環境で実験を行うと影響範囲が拡大する恐れがあるため、ユーザー影響を最小に抑える工夫が必要である
このように、カオスエンジニアリングはあらかじめ計画された実験を通じて、システムの弱点を発見し、それを修正することでシステム全体の耐障害性・回復性を高めるための重要な手法となっています。
この原則に従うことで、システムの複雑さやリスクを管理し、最終的にシステムの信頼性と可用性を向上させることが可能となります。
- ※1 参考記事:
- PRINCIPLES OF CHAOS ENGINEERING
カオスエンジニアリングの重要性
システムの耐障害性や回復性を高めることで、突発的な障害や大規模なシステムダウンによるビジネスへの影響を最小限に抑えることが可能になります。
また、カオスエンジニアリングはシステムが複雑化・大規模化しても、想定外の問題を見つけ出す有効な手段となります。特にクラウド環境では、複数のサービスが連携して動作するため、予想外の障害が生じるリスクは高くなります。
そのような状況で、カオスエンジニアリングはこのような問題の原因を発見するための重要な手法と言えます。
2. Azure Chaos Studio とは
Netflix が提唱している通り、カオスエンジニアリングには労力が必要ですが、クラウド上で効率的に実施するにはどのような方法があるのでしょうか。
ここでは、マイクロソフトのクラウド、 Azure 上でカオスエンジニアリングの実施を支援するサービス、 Azure Chaos Studio の概要とメリットについて解説します。
Azure Chaos Studio の概要

図版出典:Thomas Van Laere
Azure Chaos Studio は、マイクロソフトが提供するクラウド、 Microsoft Azure 上で利用できるカオスエンジニアリングを実施するツールです。システムに故意の障害を引き起こすことで、そのシステムの弱点を見つけ出し、改善するための一連のテストを実行することが可能です。
Azure Chaos Studio の主な特徴は、豊富なテストシナリオと、それらを自動的に実行する機能を備えていることです。 Azure 上で稼働するアプリケーションに対して、ネットワークの切断、サーバのダウン、データベースの接続失敗など、さまざまな故障状況をシミュレートすることができます。
また、これらのテストを自動的にスケジュールし、実行することが可能です。
Azure Chaos Studio の料金体系
Azure Chaos Studio は 2021 年 11 月にパブリック プレビューとして公開されたため、一時的に無料で提供されていますが、 2024 年 1 月 16 日以降に従量課金となる予定です。
課金単位はターゲットアクション分単位と呼ばれ、 Azure Chaos Studio によってカオスエンジニアリングが実行される時間に基づいて課金されます。
Azure Chaos Studio の料金体系の詳細は公式サイト(※)を参照してください。
- ※2 参考記事:
- Azure Chaos Studio(プレビュー)の価格
Azure Chaos Studio のメリット
Azure Chaos Stduio を導入するメリットは下記の通りです。
- 幅広いテストシナリオ
- カオスエンジニアリングの省力化
- Azureとの統合
幅広いテストシナリオ
Azure Chaos Studio は、ネットワークの切断やサーバのダウン、データベースの接続失敗、セキュリティ上のトラブルなど、多種多様な故障状況をシミュレートすることができます。システムに想定しうる様々なリスクに対応可能な幅広いテストシナリオを作成することができます。
カオスエンジニアリングの省力化
Azure Chaos Studio は、手作業で行うと複雑かつ時間がかかるテストを自動化することにより、作業負荷を大幅に軽減します。これにより、他の重要なタスクに集中することが可能となります。特にシステムが大規模で複雑な場合や、頻繁にテストを実行する必要がある場合には、大きなメリットとなります。
Azureとの統合
Azure Chaos Studio は、 Azure の他のサービスと統合されているため、 Azure 上で動作するサービスやアプリケーションの耐障害性・回復性を向上するために最適なサービスと言えます。
3. Azure Chaos Studio の代表的な利用シーン
Azure Chaos Studio は、さまざまなカオスエンジニアリングのシナリオをサポートします。ここでは、 Azure Chaos Studio の代表的なテストシナリオについて解説します。
特定の障害に対するアプリケーションのテスト
Azure Chaos Studio は多様な障害をシミュレートできます。リージョンの停止、ネットワーク構成エラー、高ストレス イベント、近隣ノイズの問題など、それぞれの障害に対するアプリケーションの耐障害性と回復性を網羅的にテストすることができます。
アプリケーションの性能テスト
Azure Chaos Studio では、サーバの CPU 、メモリなどのリソースやディスク I/O の高負荷をシミュレートすることができます。このテストにより、特別なイベントやセールの日など、想定よりも負荷が増加したときにアプリケーションがどのように動作するかを評価できます。
これにより、アプリケーションの耐性を向上させ、パフォーマンスの問題を予防することができます。
インシデント再発防止の確認
アプリケーションに影響を与えた障害を再現して、インシデントの原因究明と再発防止に役立てることができます。インシデントの原因を着実に見極め、アプリケーション修正後に、インシデントが再発しないことを確認できます。
ディザスタ・リカバリ(災害復旧)の訓練
カオスエンジニアリングはディザスタリカバリー(災害復旧)の訓練にも非常に役立ちます。 Azure Chaos Studio によって自然災害、ハードウェア故障、サイバー攻撃などの重大な障害をシミュレートし、ビジネスの運用を継続し、データを保護し、システムを復旧するためのプロセスと手順をテストすることができます。
4. まとめ
本記事では、カオスエンジニアリングの概要と重要性、そして Azure Chaos Studio の概要、メリット、代表的な利用シーンについて解説しました。 Azure Chaos Studio を活用することで、システムの耐障害性を高め、ビジネスに与えるリスクをコントロールすることが期待できるようになります。ぜひ専門家の支援を受けながら導入を検討してみてください。
Microsoft Azureを利用したシステムの設計・構築を代行します。お客様のご要件を実現する構成をご提案・実装いたします。

Tag: Azure Chaos Studio
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