目次
AVD上にCADをどのように導入するのか、利用上の課題と解決方法についてわかりやすく解説
コロナ禍を契機にリモートワークを導入する企業が増えている中、柔軟な働き方を実現するために導入が進んでいるのが VDI ( Virtual Desktop Infrastructure )と呼ばれる仮想デスクトップサービスです。
建設・製造業界で利用される CAD ツールは、高スペックなワークステーション上で動かすためVDI とは無縁とされてきました。しかし近年、 Microsoft の仮想デスクトップサービス Azure Virtual Desktop (以下 AVD) を利用して CAD 利用者のリモートワークの実現が可能となりました。設計作業の効率化と生産性の向上、さらには IT 管理工数の削減のメリットを享受している事例が多く見られます。
本記事では AVD 上で CAD を利用するメリット、設定手順やパフォーマンス最適化の方法などの解説、導入事例の紹介を行います。
1. Azure Virtual DesktopでCADを利用する
AVD は PC のデスクトップを仮想化し遠隔から利用できるようにしたクラウドベースのサービスです。接続クライアントと Azure へのインターネット環境さえあれば、オフィスはもちろん現場でも自宅でも場所によらず快適に仕事を行えます。
コロナ禍によって建設・製造業界の設計業務もリモートワークへの移行を余儀なくされ、自宅でもオフィスと同様の仕事ができる環境へのニーズが急速に高まりました。
また、近年の CAD 環境では様々な課題が指摘されており、例えば建設業界では国土交通省により BIM/CIM 原則の適用が進められ、その影響より高性能なグラフィックボードを搭載した PC が必要とされています。
さらに、高性能化する 3 次元 CAD ツールの要求スペックに応えるため、通常なら 4 、 5 年で減価償却するマシンを導入から 2 年余りで更新しなければならず、 IT 部門の管理工数やコストが増大しています。
AVD はリモートワークのニーズに合致するサービスであると同時に、 CAD 運用の様々な課題を解決できるソリューションです。

2. AVDとCADを組み合わせるメリット
AVD 上で CAD を運用することで得られるメリットを紹介します。
高性能グラフィックボードの選定
CAD 稼働には GPU ( Graphics Processing Unit 画像処理に特化した演算装置)搭載のマシンが必須です。 AVD には GPU 仮想化技術を採用した様々なスペックの高性能グラフィックボードがラインナップされています。
高速なデータ共有と高いセキュリティ
大容量の 3 次元 CAD データは Azure のファイル共有サービスに保存し、データの読み込みや複数デスクトップ間のデータ共有を全て Azure 上で完結させることで高速なデータ共有を実現できます。
また、作業環境を Azure 上に管理することで機密データが外部に漏れるリスクを減らし、リモートワーク環境でも高いセキュリティを確保できます。
いつでもどこでもCAD環境を利用可能
AVD にリモートアクセスができればPC 端末や場所を問わず、いつでも同じ CAD 環境を利用できます。
障害発生時でも業務の継続がスムーズ
AVD 接続に用いるクライアント PC はさほど高いスペックは要求されず、 AVD へのリモートアクセスにも特別な設定は不要なため、代替機を容易に手配できます。このため、利用中のクライアント PC に障害が発生した場合でも業務をスムーズに継続可能です。
IT 管理部門の運用負荷を軽減
AVD の仮想マシンはオンデマンドでセットアップ可能で、 CAD 環境構築にかかっていた IT 管理部門の運用負荷を大幅に軽減します。
3. AVD環境でCADを実装する方法
AVD 上の CAD 環境構築手順、ネットワークやセキュリティ設定、パフォーマンス最適化の方法を解説します。
CADソフトウェアのAVDへのインストール方法
CAD ソフトウェアの AVD への導入にあたり、セッションホストに使用する仮想マシンの環境設定が必要です。
まず、 GPU が利用できる以下のいずれかの仮想マシンを選択します。
- NVv3
- NVv4
- NVadsA10 v5
- NCasT4 v3
次にグラフィックドライバーをインストールします。NVv4 シリーズの場合は、Azure が提供する AMD ドライバー、それ以外は NVIDIA GRID ドライバーを導入します。 VM 拡張機能を使用するとドライバーのインストールを簡素化できます。
GPU レンダリングは画面描画に関する処理を CPU に代わって GPU で行うことで描画速度を高速化する機能で、 CAD アプリケーションには欠かせない機能ですが、 AVD ではデフォルトでは GPU はレンダリングに利用されません。 GPU アクセラレーションを有効にするにはセッションホストのグループポリシーの変更が必要です。 Active Directory を使用してグループポリシー変更の簡素化が可能です。
これで通常の高スペック PC にインストールするのと同様の手順で AVD 上に CAD ソフトウェアをインストールできます。

必要なネットワーク設定とセキュリティ構成
一般のインターネットを介した接続でも、 AVD 間通信は TLS 1.2 によってセキュリティが保護されます。完全な閉域網接続でセキュリティをより高めたい場合には「 Citrix Cloud with AVD 」や「 Vmware Horizon Cloud with AVD 」を利用できます。
設計データなどの機密データは全て Azure 上に置き、手元のクライアント PC に保存されない環境を構築できます。接続可能なクライアント PC を制限するために、Azure AD 条件付きアクセスの設定も可能です。
AVD のセッションホストとクライアントが Microsoft Entra ID で統合されている場合は、クライアントにログインしたユーザーが AVD へシングルサインオンでアクセス可能とする設定も行えます。
パフォーマンス最適化のためのベストプラクティス
GPU 性能が足りない場合は、より高性能な GPU シリーズの VM に容易に変更できるため、性能とコストのバランスを見ながらの環境構築が可能です。
タスクマネージャーのパフォーマンスタブで GPU を選択し、その使用率を見て GPU が適切に使用されているかをチェックできます。簡単な方法ですが CAD ソフトウェア利用時の環境設定確認に有効な手段です。
CAD 利用時の表示パフォーマンス向上には全画面表示のビデオエンコード導入が有効です。フレームエンコードに GPU アクセラレーションを使用するよう設定しましょう。但し、全画面表示のビデオプロファイルはネットワーク、セッションホスト、クライアントそれぞれのリソースを必要としますので、状況を見ながらの調整が必要です。
4. AVD 環境で CAD を使用するユースケース
企業の導入事例を通して、導入の動機や課題、得られた成果などを紹介します。
大量の CAD 環境展開の迅速化と負担の低減に成功
建築会社の A 社は、現場に設置した事務所内で CAD ソフトウェアを用いることが多く、従来はハイスペックな PC を都度現場に持ち込んでいました。年間百件を超える案件ごとに現場向けの CAD 環境の導入と撤収を繰り返すのは大きな負担となっていました。そこで A 社は CAD 環境を AVD 上に移行し、現場への CAD 環境展開の迅速化と負担の低減に成功しました。
他社との共同作業の効率化とセキュリティの強化を実現
協力会社と共同設計を行う製造業界の B 社は、設計データなど機密データのやり取りにクラウドストレージを用いていましたが、データのアップロードやダウンロードが煩雑でセキュリティ面にも不安を抱えていました。解決策として AVD 上の CAD 環境を自社だけでなく協力会社にも利用してもらい、設計作業やデータの交換を全て AVD 上で行いました。結果として、共同作業の効率化とセキュリティの強化を実現しました。
運用負荷を軽減しつつ柔軟で拡張性に優れた設計環境を構築
製造業大手の C 社は、自社運用のオンプレミス VDI から AVD への移行を行いました。同社の国内外の設計拠点には 1 万人以上が所属しており、コロナ禍でテレワークがメインになる中で既存のオンプレミス VDI はコスト面でも運用負荷面でも限界を迎えていました。 AVD は運用負荷を軽減しコストを抑えると同時に柔軟で拡張性に優れた設計環境の構築に大きく寄与しています。
5. まとめ
ここまで、 AVD 上で CAD を利用するメリット、設定手順やパフォーマンス最適化の方法、企業の導入事例を紹介しました。AVD による CAD のクラウド化は多くの利点を持つ現実的な方策であり、建設業界や製造業界のより良い働き方実現に大きく寄与するものです。導入の際は、Azure および AVD 上の CAD 利用に多くの知見を持つプロフェッショナルに相談するとよいでしょう。
Azure の導入を相談したい


資料ダウンロード
課題解決に役立つ詳しいサービス資料はこちら

-
-
Azure導入支援・構築・運用サービス総合カタログ
Microsoft Azure サービスの導入検討・PoC、設計、構築、運用までを一貫してご支援いたします。
Azure導入・運用時のよくあるお悩み、お悩みを解決するためのアールワークスのご支援内容・方法、ご支援例などをご確認いただけます。
-
-
-
AVD(Azure Virtual Desktop)運用サポートサービスカタログ
AVD 環境におけるトラブルやお問い合わせへの対応、運用方法のレクチャーなどをご支援いたします。
Azure Monitor(監視)で検知しないようなトラブルに関する原因調査と解決策のご提示や、AVD に関する技術的な問合せ対応、お客様のご事情に合わせた最適な AVD の機能・サービスのご提案など、サービス内容をご確認いただけます。
-
Microsoft Azureを利用したシステムの設計・構築を代行します。お客様のご要件を実現する構成をご提案・実装いたします。

Tag: Azure Virtual Desktop CAD
よく読まれる記事
- 1 Microsoft Entra IDとは? オンプレAD、Azure ADとの違いや機能、エディション、移行方法をわかりやすく解説2024.04.05
- 2 Microsoft Purviewとは?概要や主な機能、導入するメリットを解説2023.09.11
- 3 Azure Bastionとは?踏み台による仮想マシンへのセキュアな接続方法について解説2022.05.12
- 4 Azureネットワークセキュリティグループ(NSG)とは?特徴や設定時の注意点を解説2021.04.28
- 5 VDIに必要なWindows VDAライセンスとは?費用感、ライセンスの考え方について解説します!2022.08.10
Category
Contactお問い合わせ
お見積もり・ご相談など、お気軽にお問い合わせください。