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クラウド時代の DevOps において欠かせないパッケージマネージャーを解説
Kubernetesの導入が進む中、多くの企業が直面している課題が「マニフェストの複雑化」や「環境ごとの設定管理」です。これらの課題を解決し、アプリケーションのデプロイ作業を効率化するツールが Helm です。Helm は Kubernetes 向けのパッケージマネージャーであり、クラウド時代の DevOps において欠かせない存在となっています。
本記事では、Helm の概要や主な機能、実際の活用シーン、導入方法を解説します。
1. Helmとは
Helm とは、 Kubernetes におけるアプリケーションの「パッケージマネージャー」です。
Kubernetesでは様々なリソースを定義するために複数のマニフェスト( YAML ファイル)を管理する必要がありますが、Helm はこれらを「チャート」という単位でテンプレート化し、構成管理・配布・再利用を容易にします。
Helmの必要性
Kubernetes 環境におけるアプリケーションの運用は、マニフェストファイルの数が増加するにつれて管理が複雑になりやすく、環境ごとの設定差異やバージョン管理の煩雑さによって、人的ミスのリスクが高まります。こうした課題に対して有効な解決策として注目されているのが、 Helm です。
Helm は、アプリケーションのデプロイを標準化・自動化することで、環境ごとの設定管理の負担を軽減し、バージョン管理やロールバックも容易にします。
Helm 2とHelm 3の違い
Helm には「 Helm 2 」と「 Helm 3 」というバージョンがあります。 Helm 3 では Helm 2 で使用されていた Tiller が完全に廃止され、Helm CLI が直接 Kubernetes API を操作するシンプルな設計に改められました。これにより、ユーザーごとのアクセス権限を尊重した安全な運用が可能となりました。
その他にも、Helm 3 ではチャート構造の改良やロールバック機能の強化、コマンドラインの操作性向上など、実用性の面でも多くの改善が加えられています。
2. Helmの主な機能とメリット
Helm の実用的な機能およびそのメリットについて解説します。Helm は、Kubernetes 運用を効率化・自動化するために実用的なツールであり、クラウド環境や継続的デリバリが求められる現場で効果を発揮します。
Helmの主な機能
Helm は、以下の主要な機能を備えています。
チャート管理
アプリケーションの構成を「チャート」としてテンプレート化し、再利用可能にします。
インストール / アップグレード / ロールバック
バージョン管理・状態の復元を可能にします。
依存関係の管理
複数のマイクロサービスの構成管理を自動化します。
Helmのメリット
Helm の利用によって得られるメリットも多岐にわたります。
①マニフェスト管理の効率化
複数の Kubernetes マニフェストを 1 つのチャートでまとめて管理できるため、リソースの散在を防ぎ、構成の一元管理ができます。
②環境ごとの切り替えが容易
テンプレートと values.yaml による環境ごとの設定分離により、ステージング・本番間の設定ミスを防止し、スムーズかつ安全なデプロイを実現します。
③テンプレート化・自動化による人的ミスの防止
Helm のテンプレート機能により、手作業でのマニフェスト修正が不要となり、作業ミスや記述ミスを防止できます。
④CI/CD連携が容易
Jenkins や GitHub Actions などの CI/CD ツールと容易に統合可能で、自動デプロイの構築がスムーズに行えます。これにより、迅速かつ安定したリリース体制を実現します。
⑤ロールバック機能による運用リスクの低減
Helm はデプロイ履歴を管理しており、特定のリリース状態へ簡単にロールバックが可能です。これにより、デプロイ後の不具合にも迅速に対応でき、システムの安定性と信頼性を確保できます。
3. Helmの活用シーン
Helm の活用シーンについて、DevOps の実現やクラウド環境での活用、マルチ環境での構成管理に分けて解説します。
企業のDevOpsにおけるHelm
DevOps では、開発と運用の連携を強化し、継続的インテグレーション/継続的デリバリー( CI/CD )によってアプリケーションの自動的かつ迅速なデプロイが求められます。
Helm と CI/CD ツールを組み合わせて、アプリケーションの構成や設定をテンプレート化することで、どの環境でも統一された方法でデプロイが可能です。
また、万が一、問題が発生してもロールバック機能により簡単に以前の状態に戻せて、構成の共有や管理もシンプルになるため、新しい開発メンバーや外部チームでもスムーズに作業を進められます。
クラウド環境での活用
Helm は、 AKS ( Azure Kubernetes Service ) 、EKS ( Amazon Elastic Kubernetes Service ) 、GKE ( Google Kubernetes Engine ) などの主要なクラウド Kubernetes サービスとの相性が良く、導入・運用がしやすい点も魅力です。マルチクラウドやハイブリッドクラウドといった複雑なインフラ環境においても、 Helm チャートを活用することで構成を統一し、運用の複雑さを軽減することが可能です。
マルチ環境対応
開発・テスト・本番など複数の環境で構成が異なる場合でも、 Helm では values.yaml ファイルに記述することで、環境ごとの設定を柔軟に管理できます。これにより、アプリのバージョンアップも容易にロールアウト・ロールバックでき、運用負荷が軽減されます。
4. Helmにて使用するコマンドと導入手順
Helm を使用するには、あらかじめ以下の環境が整っている必要があります。
- Kubernetes クラスターが構築済みであること
- kubectl コマンドがインストールされ、クラスターにアクセスできる状態であること
また、Linux または macOS の場合、以下のコマンドで Helm を簡単にインストールできます。
curl https://raw.githubusercontent.com/helm/helm/main/scripts/get-helm-3 | bash
このスクリプトは Helm 3 をダウンロードし、適切な場所にインストールしてくれます。
次に、チャート(アプリケーション構成のテンプレート)を取得するために、リポジトリの登録が必要です。以下のコマンドで、公式の「 stable 」チャートリポジトリを追加できます。
helm repo add stable https://charts.helm.sh/stable
helm repo update
主なHelmコマンド一覧
コマンド | 概要 |
---|---|
helm install | チャートからアプリケーションをデプロイします。 |
helm upgrade | デプロイ済みのアプリケーションをアップグレードします。 |
helm rollback | 以前のバージョンにロールバックします。 |
helm list | 現在デプロイされているアプリケーションを一覧表示します。 |
導入時のポイント(設定時の注意)
Helm の導入と運用を行う際には、設定ファイルの管理方法やセキュリティ対策に特に注意が必要です。values.yaml の扱い方や、機密情報の取り扱いを誤ると、環境の混乱や情報漏洩のリスクが高まるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
values.yaml は環境ごとに管理する
Helmでは values.yaml に設定情報を記述しますが、本番環境用と開発環境用を混在させないように注意が必要です。ディレクトリ構成を工夫して環境ごとに整理すると、安全でミスのない運用につながります。
機密情報の管理には注意する
values.yaml に直接パスワードやAPIキーなどの機密情報を記載するのは避けましょう。代わりに、Sealed Secrets や AWS Secrets Manager などの外部の秘密管理ツールとの連携を検討することで、セキュアな設定管理が実現できます。
5. まとめ
Helmは、Kubernetes運用の効率化に欠かせないパッケージマネージャーです。特にHelm 3の登場により、セキュリティや操作性が大きく向上し、企業利用においても安心して導入可能となりました。本記事で紹介したHelmの機能や活用シーンを理解することで、複雑なマニフェスト管理から解放され、Kubernetes環境の運用をよりシンプルかつ強力なものに変えられます。今後、 DevOpsや CI/CD を推進する中で、Helmは確実にその中心的役割を果たすはずです。
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