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運用品質を定量的に捉え、改善を継続するための実践アプローチを解説
「運用改善に取り組んでいるものの、なかなか成果につながらない」と悩む企業は少なくありません。
システム運用は安定稼働が前提となる一方で、「どの状態を良しとするか」「どこまで対応すべきか」といった判断基準が曖昧なまま運用されているケースが多いためです。その結果、改善活動が属人化したり、優先順位が定まらないまま停滞したりすることがあります。
また、品質を定量的に把握できていないと改善の効果を示せず、継続的な見直しや投資判断が進まない原因にもなりかねません。
本記事では、運用改善が進まない原因を「曖昧さ」という観点から整理します。そのうえで、 SLI/SLO を活用した運用品質の定量化の考え方と、実務における設計・運用の進め方を解説します。
1. 運用改善が進まない企業に共通する課題とは
システム運用の改善に取り組んでいるにもかかわらず、思うように成果が出ない企業には、いくつかの共通する課題があります。まずはその具体的な要因を整理していきましょう。
運用品質の定義が曖昧で評価できない
「なんとなく運用負荷が高い気がする」「障害対応が毎回場当たり的になる」「改善しているはずなのに効果を実感できない」と悩む現場は多いものです。こうした問題の背景には「どのような状態を良い運用とするか」が明確に定義されていないという課題があります。
多くの企業では、「安定している」「問題なく動いている」といった感覚的な基準で運用品質を捉えがちです。しかし、これでは改善の成果を定量的に示せず、どこに課題があるのかも明確になりません。さらに、客観的な評価基準が存在しないため、現状が良いのか悪いのかの判断も属人化しやすくなります。
結果として、改善活動がその場しのぎになり、優先順位も定まらないため、継続的な品質向上につながらないという悪循環に陥ってしまいます。
責任範囲・期待値が不明確で認識が揃わない
内製と外部ベンダーを組み合わせて運用している場合、対応範囲や対応水準の定義が曖昧になりやすいことも課題です。「どこまで対応するのか」「どのレベルで正常とするのか」が明確でないと、トラブル発生時に認識のズレが生じやすく、運用品質にもばらつきが生まれます。
特に、対応時間や復旧目標の具体的な基準が共有されていない場合、対応の遅れによる機会損失や、過剰対応によるコストの肥大化が起こりやすくなります。
改善活動が属人化し、再現性がない
運用改善が特定の担当者の経験やスキルに依存しているケースも散見されます。この状態では、判断基準や対応プロセスがチーム内で共有されず、組織にナレッジが蓄積されにくくなります。
その結果、担当者が変わると品質が維持できず、同じ課題を繰り返すことになりかねません。また、効果検証を行わないまま次の対応に追われる現場も多く、改善のサイクル自体が確立されない点も課題です。
各課題に共通するのは、「品質・責任・判断基準が明確に定義されていない」点です。つまり、運用改善が進まない本質的な原因は「曖昧さ」にあります。これが解消されない限り、課題の特定や優先順位付け、効果検証は機能せず、改善は構造的に停滞します。
2. SLI/SLOとは?運用品質を定量化する考え方
運用改善を進めるうえで重要となるのが、「運用品質を定量的に定義し、共通基準として扱うこと」です。その実現手法として SLI/SLO が用いられます。
SLI(Service Level Indicator):サービスの状態を測る指標
SLI とは、サービスの品質を測る具体的な指標であり、「ユーザーにとっての体験」を数値化する役割を持ちます。システム内部の状態ではなく、ユーザーに影響する品質の可視化が重要です。
代表的なメトリクスとしては、可用性(稼働率)、レイテンシ(応答時間)、エラー率、スループット(処理量)などが挙げられます。具体的には「一定期間における稼働率」や「平均応答時間」、「エラーが発生しなかったリクエストの割合」として定義します。
これにより「安定している」といった曖昧な表現ではなく、どの程度の品質でサービスが提供されているかを客観的に把握することが可能です。
SLO(Service Level Objective):達成すべき目標水準
SLO とは、サービスの品質に対して「どの水準を維持するか」を定めた目標値です。単なる理想値ではなく、ビジネスへの影響やユーザー体験を踏まえた現実的な水準を設計する必要があります。
たとえば「月間稼働率 99.9% 以上を維持」「平均応答時間を 1 秒以内に維持」「エラー率を 1% 未満に抑える」といった形で定義します。これにより「どこまで達成すれば十分か」の期待値が明確になり、過剰品質や品質不足を防ぐことが可能です。
SLI と SLO の策定により、「どの状態が正常か」「どの程度の逸脱で問題か」といった判断基準が明確になります。結果として、障害対応の優先順位付けやエスカレーション判断を客観的に行えるようになります。
さらに、 SLO の達成状況を継続的に確認すれば、改善効果を定量的に検証できるようになり、属人的ではない改善サイクルを回すことが可能です。
3. SLI/SLOの設計と進め方
SLI/SLO は、単に指標や目標を設定するだけでは機能しません。サービスの特性やビジネス要件に基づいて設計し、運用のなかで継続的に活用することが重要です。ここでは、実務での進め方を 3 つのステップに分けて解説します。
1. ユーザー体験を起点に測るべき指標(SLI)を定義する
まず重要なのは、「何をもって良い状態とするか」をユーザー視点で整理することです。たとえば、 EC サイトであれば「ページが正常に表示される」「決済を完了できる」状態が該当します。
そのうえで、それらの体験を測定する指標として SLI を定義します。可用性や応答時間、エラー率などから自社サービスに重要な指標を選定することがポイントです。システム内部の指標ではなく、「ユーザーに影響する品質」を優先する必要があります。
2. ビジネス要件を踏まえて現実的なSLOを設定する
次に、定義した SLI に対して維持すべき目標値( SLO )を設定します。理想値ではなく「ビジネスとして許容できる水準」を基準にすることが重要です。
すべての処理を 100% 成功させることは現実的ではないため、「どの程度の失敗まで許容するか」を定めましょう。具体的には「月間稼働率 99.9% 」の場合、約 43 分間のシステム停止を許容する計算になります。
このように許容範囲をあらかじめ定義しておけば、維持すべき品質のブレがなくなります。結果として、過剰品質によるコスト増大や、品質不足によるユーザー体験の毀損を防げます。
3. 測定・評価・見直しのサイクルを回す
SLI/SLO は一度設定して終わりではなく、継続的に運用することが前提です。定期的に SLI を計測して SLO の達成状況を確認し、現状の品質を把握します。目標を下回った場合は原因を分析し、具体的な改善施策を講じましょう。
また、サービスの成長や利用状況の変化に応じて、 SLO 自体を見直すことも重要です。このように「測定→評価→改善→見直し」のサイクルを回すことで、運用品質を継続的に高められます。
4. 運用に定着させるための体制整備
SLI/SLO は設計するだけでは意味がなく、実運用のなかで継続活用されてはじめて価値を発揮します。ここでは、 SLI/SLO を組織に定着させるためのポイントを整理します。
SLO逸脱時の対応ルールと意思決定基準を定義する
まず重要なのは、「 SLO を下回ったときにどう動くか」をあらかじめ決めておくことです。関係者による定期的なレビューや臨時の会議体を設け、 SLO 未達の原因分析、改善方針、対応の優先順位を整理するプロセスの明確化が求められます。
こうした判断基準が定まっていないと、運用の属人化が進み、場当たり的な対応に陥るリスクが高まります。
日常業務に組み込み、継続的に可視化する
SLI/SLO は、定期的に確認されなければ機能しません。ダッシュボードなどを活用して達成状況を常時可視化し、定例ミーティングで確認するといった仕組みの構築が必要です。
単なる数値の確認にとどまらず、「どこに課題があるか」を議論することで、運用品質に対する共通認識が組織内へ浸透します。
改善と見直しを前提とした運用プロセスを構築する
SLO は一度決定すれば終わりではなく、サービスの変化やビジネス要件に応じて見直す必要があります。 SLI/SLO の達成状況を定期的に振り返り、課題の特定から改善施策の検討・実行までを一連のサイクルとして回し続ける体制が不可欠です。
また、改善内容や対応結果を記録・共有すれば、組織のナレッジとして蓄積され、再現性のある改善活動につながります。このように改善と見直しを継続的に回すことで、運用品質を段階的に高められるでしょう。
5. 陥りがちな失敗例と注意点
SLI/SLO は有効な手法である一方、導入しても期待した効果を得られないケースも少なくありません。ここでは、実運用で陥りがちな失敗例と注意点を整理します。
エラーバジェットを活用できない
エラーバジェットとは、 SLO で定めた目標に対して「どれだけの失敗が許容されるか」を示す考え方です。たとえば、 SLO が 99.9% であれば、残りの 0.1% がエラーバジェットとなります。
実際のサービス状態を示す SLI をもとに、このエラーバジェットがどの程度消費されているかを把握できます。 SLI が SLO を上回っていればエラーバジェットに余裕があり、逆に SLI が低下して SLO に近づく、あるいは下回るとエラーバジェットが枯渇している状態です。
この残り具合をもとに、余裕がある期間は新機能追加などの開発を優先し、使い切った場合は既存機能の改善や安定化対応に集中する、といった判断が可能になります。
しかし、この活用ルールが定義されていない場合、エラーバジェットは単なる指標として扱われ、実際の意思決定に活かされません。そのため、エラーバジェットを管理するだけでなく、「どの状態でどの判断を行うか」まで運用ルールに落とし込む設計が必要です。
指標を増やしすぎて形骸化する
SLI を網羅的に定義しようとするあまり、多くの指標を設定しすぎるケースもあります。しかし、指標が多すぎるとどれが重要なのかがわからなくなり、最終的には誰も確認しなくなるリスクがあります。
また、データを取得しているだけで、障害対応や優先順位の判断に活用されず、形骸化したレポートと化すケースも少なくありません。 SLI は「ユーザー体験に直結する重要な指標」に絞り、優先順位を明確にしたうえで、実際の意思決定に組み込む体制が不可欠です。
SLI/SLO は有効な考え方ですが、設計から運用、改善までを一貫して回し続けるには、一定の知見と体制が求められます。
6. まとめ
運用改善を進めるうえで重要なのは、品質・責任・判断基準の曖昧さを排除し、共通認識として扱うことです。 SLI/SLO は、運用品質を定量化して関係者間の認識を揃える有効な手法ですが、設計するだけではなく、運用のなかで継続的に活用することが求められます。
ユーザー体験を起点とした指標設計、ビジネス要件に基づく目標設定、改善サイクルの継続といった一連の取り組みを実現してはじめて、運用改善は機能します。しかし、これらを自社リソースのみで設計から運用、改善まで一貫して回し続けることは容易ではありません。
Rworksが提供する伴走型運用サービス「 OPS-AID Works 」では、運用設計の整理から SLI/SLO の定義、日常運用への組み込み、改善サイクルの定着までを伴走型で支援します。個別の環境や体制に合わせて、継続的に運用品質を高められる点が特長です。
運用改善に課題を感じている方は、Rworksへご相談ください。
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