目次
システムのクラウド移行が加速する中、「クラウドサービスを活用しているが、クラウド毎に個別に監視・運用をしているため、運用が煩雑化している。どうすればよいか?」「オンプレミスとクラウドを併用することになり、運用管理体制を見直したい」といったお声をいただくことも多くなりました。
システムは構築して終わりではなく、安定稼働するための運用が重要です。そして、システム運用の品質を担保しながら効率を上げていくためには、運用設計が必要となります。
この連載では、運用設計の考え方やの取り組みについて、事例も交えて紹介します(全12回)。
はじめに
前回は、運用体制構築するための前提である「何を、どう管理するのか」の1つ、「IT継続性管理」に ついて、取り組み事例(当社の場合)も交えてご紹介しました。
今回は、「キャパシティ管理」をテーマにお話しします。
キャパシティ管理とは?
目的
キャパシティ管理は、サービスを供給するために必要なITキャパシティを予測して、適切なタイミングで提供できる準備を整えるプロセスです。
サービスにおけるキャパシティは不足しても過剰であってもいけません。対象システムの処理能力が利用者の期待値にそぐわず応答速度が十分でない場合、サービスがビジネスに悪影響を与える結果となります。 逆にオーバースペックであった場合、過剰な投資となり利益を圧迫し無駄になります。
- 必要なリソースとコストのバランスをとること
- 需要と供給のバランスをとること
行うこと
必要なITキャパシティを予測する際には、サービスの需要と供給に関わるあらゆる要因を分析しなくてはなりません。 キャパシティ管理では、大きく分けて事業キャパシティ管理、サービス・キャパシティ管理、およびコンポーネント・キャパシティ管理という 3 つのサブプロセスに分類し管理を行います。
ITILでは下記のように記載されています。
1.事業キャパシティ管理
ITサービスに対する事業部門のニーズと事業計画から、将来必要になるキャパシティ(システムや人的要員)を計画・実装できるようにします。
2.サービス・キャパシティ管理
ITサービスのキャパシティとパフォーマンスを把握します。SLAとSLRにサービス目標値として書かれているすべてのサービスのパフォーマンスを監視、測定し、収集したパフォーマンスのデータを記録、分析します。
3.コンポーネント・キャパシティ管理
「CPU利用率」や「メモリ使用量」など、ITインフラを構成する各コンポーネントのキャパシティ、使用率、パフォーマンスを管理します。そうすることで予兆に気づき、起こりうる問題に対して事前に対策をとることができます。
キャパシティ管理の取り組み事例
キャパシティ管理についての取り組み事例(当社の場合)をご紹介します。自社で取り組む際の参考になれば幸いです。
当社の事業(24時間365日のシステム運用サービスとクラウド構築サービス、クラウド型監視サービス)のキャパシティニーズを満たすため、サービス提供基盤(監視システム、ナレッジ管理システム、コミュニケーション基盤)や人員について、下記対策をとっています。
事業キャパシティ管理
事業キャパシティ管理は、事業(ビジネス)の現在のニーズと将来のニーズを把握し、適切なキャパシティを適切な時期に提供することを目的としています。
当社は中期経営計画をもとに事業キャパシティを設計しています。中期経営計画にて策定された事業計画と売上計画ならびにアクションプランを元に設備投資計画と人員計画を策定し、これらを達成するためのコストを予算として計上します。
サービス・キャパシティ管理
サービス・キャパシティ管理は、現在稼働中のサービスにおけるキャパシティがSLAで合意したサービスレベルを維持(保証)出来るようサービスパフォーマンスを測定・分析し、不足していれば必要な策を講じる必要があります。
当社サービスでは、運用サービスにおけるお客様からの依頼作業数(タスク量)についての実績値と計画値の乖離要因を分析するとともに、実績値と稼働工数の関係が計画通りかを分析します。分析した結果に応じて、システム自体の増強が必要か、運用要員の増強が必要か、システムの改善によって効率化を高めることで対応可能かなどを見極め、対策を講じます。
また、これらの測定・分析・見直しのプロセスは毎月行っています。
コンポーネント・キャパシティ管理
サービス構成の設計や調達では、サービスレベル要件から必要なITリソースを予測するためのコンポーネント・キャパシティの管理を行う必要があります。サービスを構成するコンポーネントには、ハードウェアやソフトウェア、マニュアル類、サポート要員が含まれており、これらのパフォーマンスを測定・分析し、必要なチューニングを行う必要があります。
当社では、サービス提供に必要となるハードウェア・ソフトウェアのパフォーマンスモニタリングについて、以下の方針のもとで実施しています。
- ハードウェアのリソース(CPU、メモリ、ディスク使用量など)利用状況を監視(把握)する。
- ソフトウエア(サービス)の応答速度を監視(把握)する。
- シナリオ監視によるWebサイトの一連の画面遷移におけるパフォーマンスを監視(把握)する。
以上において基準を超えている場合は、越えている原因を調査し規定値に戻すことが可能かを判断し、戻すことが難しい場合はスケールアップやスケールアウトによる増強を実施します。 これらパフォーマンスモニタリング結果は、過去のデータを全て保管し、キャパシティ分析に使用します。
まとめ
今回は、運用体制構築するための前提である「何を、どう管理するのか」の1つ、「キャパシティ管理プロセス」について、取り組み事例(当社の場合)も交えてご紹介しました。
キャパシティ管理を行うことで、費用を最小限に抑えつつ、ビジネスのニーズに即したITキャパシティの提供が可能になります。高い費用対効果でビジネスニーズにタイムリーに対応できるようになるため、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。自社の取り組みにもぜひ取り入れてみてください。
次回は、「情報セキュリティ管理」についてお話しします。
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Tag: 運用設計
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