本コラムは全4回シリーズです。
伴走型支援やナレッジ共有の定着について解説します。
目次
「担当者の努力」に頼らない、継続的な運用改善を実現する仕組みづくりのポイント
システム運用の現場では、「困ったら詳しい担当者に聞けばよい」「過去のチャットを検索すれば何とかなる」といった対応が日常化していないでしょうか。
手順書や運用ドキュメントの整備、ナレッジベースの構築など、ナレッジ共有に取り組んでいるにもかかわらず、「ドキュメントを作っても更新されない」「情報はあるのに活用されない」「担当者への問い合わせが減らない」と悩む現場は少なくありません。
ナレッジ共有が定着しない原因は、担当者個人の意識や努力不足ではなく、情報を作成・利用・更新する仕組みが整っていないことにあります。
本記事では、ナレッジ共有が定着しない組織に共通する原因を整理するとともに、仕組み化によって得られる効果や、ナレッジを形骸化させず継続的に活用するためのアプローチを解説します。
1. ナレッジ共有が続かない組織で起きていること
ナレッジ共有が定着しない組織では、「ナレッジが存在しない」のではなく、「作成」「利用」「改善」のプロセスのどこかが滞っているケースが大半です。
このサイクルのどこが止まってもナレッジは形骸化し、担当者への業務集中や運用品質の低下を招きます。まずは、自組織のナレッジ共有がどの段階で止まっているのかを確認してみましょう。
作成:ナレッジの作成が続かない
障害対応や問い合わせ対応が終わった際に、「今回の対応内容を残しておこう」「手順書を更新しておこうと」思っても、すぐに次の問い合わせや障害対応、機能追加の作業などが始まり、ドキュメント作成は後回しになりがちです。
たとえば、チケットには「復旧済み」という結果だけが残り、何を確認し、なぜその対応を選んだのかが記録されていないケースはないでしょうか。チャット上で対応方法が共有されても、やり取りが流れてしまい、後から参照できるナレッジとして整理されていない場合もあります。
この状態では、対応の過程で得られた知見が担当者の記憶にとどまり、組織で利用できる情報が増えていきません。「同じ担当者への質問が繰り返される」「類似した障害が発生するたびに一から調査している」といった状況が見られる場合は、ナレッジの「作成」が止まっている可能性があります。
利用:ナレッジがあっても利用されない
手順書や過去の対応記録が作成されていても、障害対応や問い合わせ対応の際に参照されていないケースも少なくありません。
たとえば、担当者がナレッジを探さず、最初から詳しい人へ質問してしまうケースです。検索しても必要な情報にたどり着けず探すのを諦めてしまったり、見つけた文書が現在も有効か分からず結局担当者へ確認したりすることもあります。その結果、「探すより詳しい担当者に聞いたほうが早い」という判断が定着してしまいます。
ナレッジの件数が増えているにもかかわらず、同じ内容の問い合わせが繰り返され、詳しい担当者への確認が減らない場合は、ナレッジが現場の判断や行動に使われていません。このような状況では、ナレッジの「利用」が止まっている可能性があります。
改善:ナレッジの更新・改善が続かない
ナレッジを実際の対応で利用すると、説明が不足している箇所や、現在の環境と異なる記述、追加すべき判断条件などが見つかることがあります。こうした気づきが内容へ反映されなければ、ナレッジは実際の運用と次第に合わなくなります。
たとえば、仕様変更後も古い手順が残ったままになっていたり、過去の障害対応手順が現在の環境では利用できなかったりすると、「このドキュメントは信用できない」という認識が現場に広がります。その結果、誰も参照しなくなり、更新も行われなくなるという悪循環に陥りかねません。こうした状況が見られる場合は、ナレッジの「改善」が止まっている可能性があります。
このように、ナレッジ共有は「作成」「利用」「改善」のいずれか一つでも止まると、本来の効果を十分に発揮できません。
2. ナレッジ共有が定着しない組織に共通する3つの原因
ナレッジ共有が定着しない背景には、担当者個人の意識や能力だけではなく、組織全体の運用設計や運用方針に起因する課題があります。
IPA の『脆弱性診断内製化ガイド』や『AI時代のルール(法・標準)とソフトウェアエンジニアリングに関する共同調査研究報告書』でも、継続的な運用には役割や業務プロセスの明確化、情報共有、継続的な改善の仕組みが重要であることが示されています。
ここでは、「作成」「利用」「改善」が止まる 3 つの原因を見ていきましょう。
作成が止まる原因:ナレッジの作成が業務プロセスに組み込まれていない
ナレッジの作成が続かない原因には、「情報を残すこと」までが日常業務として定義されていないことがあります。
たとえば、障害対応であれば復旧、問い合わせ対応であれば回答、設定変更であれば作業完了までが業務として定義され、その過程で得られた情報を記録するところまで含まれていないケースです。この状態では、対応内容を残すかどうかが担当者の判断に委ねられ、「時間があれば書く」という運用になるおそれがあります。
また、どのような案件を記録するのか、何をどこまで残すのかが決まっていなければ、その都度、担当者が記録の要否や内容を判断しなければなりません。判断を個人に委ねると、担当者によって記録の有無や内容に差が生じ、忙しい時期ほど作成されにくくなります。
サービス運営では、機能追加や仕様変更、障害対応などが日常的に発生します。その都度得られた知見を継続的に蓄積するには、ナレッジ作成を一時的なプロジェクトとして扱うのではなく、対応記録の作成までを業務の完了条件に含めるなど、日常の業務プロセスに組み込むことが重要です。
あわせて、記録する対象と最低限残す項目を定め、担当者が迷わず作成できる状態を整えることも欠かせません。
利用が止まる原因:保存場所や記載方法のルールが統一されていない
ナレッジが作成されていても、どこに、どのような形式で保存するかが統一されていなければ、必要なときに利用しにくくなります。
たとえば、障害対応の手順は Wiki 、設定変更の履歴は SharePoint 、問い合わせ対応の経緯は Slack 、設計資料はファイルサーバーに保存されていると、利用者は最初に「どこを探すか」を判断しなければなりません。
「保存場所が部門や担当者ごとに異なる」「文書のタイトルや分類方法がそろっていない」「対象システムや作成日・更新日などの必要な情報が記載されていない」といった状態では、検索しても適切な情報にたどり着きにくくなります。
また、同じ障害や作業に関する文書が複数存在し、それぞれ内容や更新時期が異なっていれば、「どれが最新なのか」「どれを参照すればよいのか」を判断するための確認作業も必要です。こうした負担が積み重なることで、ナレッジを探すよりも、事情を知っている担当者へ直接聞いたほうが早いという運用につながりやすくなります。
組織として利用できる状態をつくるには、単に情報を一か所へ集めるだけでなく、保存先や分類、タイトル、記載項目、検索方法などの共通ルールを定め、必要な情報へたどり着きやすくすることが重要です。
改善が止まる原因:ナレッジを継続的に更新・改善する仕組みがない
ナレッジの更新・改善が止まる背景には、作成後に「誰が・どのようなタイミングで」見直すのかが決められていないことがあります。
ソフトウェアやサービスは、機能追加や仕様変更、運用フローの変更などによって継続的に変化するものです。しかし、変更作業と関連文書の見直しがひもづいていなければ、システムや運用だけが変更され、手順書には以前の情報が残ります。作成時点では正しかったナレッジも、時間が経過すれば実際の運用と合わなくなる可能性もあるでしょう。
また、実際の対応で誤りや不足が見つかっても、誰が修正するのか、どのように改善を依頼するのかが決まっていなければ、その場で気づいた人の記憶にとどまりかねません。改善依頼を残しても、反映する担当者や期限が定められていないと、対応されないまま滞留するリスクがあります。
仕様変更時に関連する手順書を更新するルールがない、文書ごとの管理責任者が決まっていない、一定期間利用されていない情報を見直す機会がないといった状態では、古い情報が残り続けます。
『AI 時代のルール(法・標準)とソフトウェアエンジニアリングに関する共同調査研究報告書』で示される継続的な改善という考え方と同様に、ナレッジも一度作成して終わりではなく、変化を前提として見直し続けられる運用を設計することが重要です。
ナレッジ共有の仕組み化や内製化支援、継続的な運用改善に課題を感じている方は、Rworks の伴走型運用サービス「 OPS-AID Works 」の支援内容をまとめた以下のカタログもぜひご覧ください。
3. 仕組み化できている組織は何が違うのか?ナレッジ共有で得られる3つの効果
前章で紹介した課題は、ナレッジ共有を仕組み化することで改善できます。ナレッジ共有を仕組み化できている組織では、単にドキュメントが整備されているだけではありません。
情報を作成・活用・更新する流れが日常業務に組み込まれており、担当者が変わっても運用を継続できる体制が構築されています。その結果、日々の運用だけでなく、サービス改善にも継続的に取り組めるようになります。
本来注力すべき業務に時間を使えるようになる
仕組み化できている組織では「調べる」「聞く」「説明する」時間が大幅に減ります。
たとえば障害が発生した場合でも、過去の対応履歴や復旧手順、設定変更時の注意点などが一元管理されていれば、担当者は必要な情報をすぐに参照できます。そのため、「以前はどう対応したか」を調べたり、詳しい担当者へ確認したりする時間を削減することが可能です。
ナレッジだけですべての判断を完結できるわけではありませんが、頻繁に繰り返されている質問や定型的な作業については、経験者が同じ内容を都度説明する負担を軽減できます。こうした積み重ねによって生まれた時間を、監視の改善や運用自動化、運用設計の見直しなど、本来取り組むべき改善業務へ充てられるようになります。
教育コスト・引き継ぎコストを削減できる
ナレッジが組織全体で共有されるようになると、「人から教わる」よりも「情報を見れば分かる」状態をつくりやすくなります。
たとえば新しいメンバーが運用を担当する場合でも、対応手順だけでなく、「なぜその設定にしているのか」「過去にどのような障害が発生したのか」といった背景までナレッジとして残されていれば、自分で調べながら業務を進められます。
経験者が付きっきりで説明する時間を減らせるだけでなく、担当者によって教える内容が変わるといった属人的な教育も起こりにくくなるでしょう。
ナレッジは教育そのものを不要にするものではありませんが、新しい担当者が業務を習得し、独力で対応できるようになるまでの過程を支える共通の教材として活用できます。結果として、教育期間を短縮しながら、組織全体で一定の運用品質を維持しやすくなります。
特定の人の経験に左右されない運用体制を構築できる
運用ノウハウが組織全体へ蓄積されることで、「○○さんしか分からない」という属人化が起こりにくくなります。
たとえば、担当者が休暇や異動で不在になっても、運用手順や判断基準、設定変更の経緯、過去の障害対応履歴などが整理されていれば、別の担当者でも対応を引き継ぎやすくなります。また、担当者が変わるたびに運用方法が変わったり、同じ障害を何度も調査したりすることも減るため、運用品質を継続的に維持しやすくなるでしょう。
つまり、ナレッジ共有を仕組み化する目的は、単にドキュメントを増やすことではありません。個人の経験を組織全体で活用できる状態をつくり、担当者の交代や環境の変化があっても、一定の品質で継続的にサービスを運営できる体制を構築することにあります。
4. まとめ
ナレッジ共有が定着しない背景には、担当者の意識や能力だけでなく、情報を継続的に作成・利用・更新できる仕組みが整っていないという問題があります。
手順書やドキュメントを整備したり、ナレッジ共有ツールを導入したりするだけでは十分とはいえません。運用ルールが整っていなければ、情報が蓄積・活用されず、属人化や運用品質のばらつきにつながります。
そのため、「ナレッジを残すこと」を担当者個人へ任せるのではなく、日常業務の中で自然にナレッジが作成・活用・更新される仕組みを構築することが重要です。
また、ナレッジ共有は一度仕組みを整備して終わりではありません。サービスの成長や運用の変化に合わせて継続的に見直し、改善していく必要があります。
アールワークスの「 OPS-AID Works 」は、日々の運用支援だけでなく、ナレッジ共有の仕組みづくりや運用改善、標準化まで伴走型で支援するサービスです。継続的な運用改善を進めたい方は、具体的な支援内容や支援例を紹介した以下の資料をぜひご覧ください。
また、担当者への依存や運用負荷に課題を感じている場合は、アールワークスへお気軽にご相談ください。
次回(第3回)は「ナレッジ共有を「やって終わり」にしない|属人化を防ぐ3ステップの仕組み化」を解説します。ぜひご覧ください。

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Tag: OPS-AID Works
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