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自社のリスク対策に落とし込む、優先順位付けと運用の進め方
「情報セキュリティ 10 大脅威」は、情報処理推進機構( IPA )が毎年公表している、社会的影響の大きいサイバーセキュリティ上の脅威をまとめたレポートです。
2026 年版でも、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃など、企業運営を脅かす重大なリスクが引き続き警戒されています。しかし、ランキングを確認するだけでは、自社が何を最優先で対策すべきかまでは見えてきません。
本記事では、 10 大脅威を単なるランキングとして捉えるのではなく、自社環境へ落とし込むプロセスを重視します。そのうえで、優先順位の決定方法や、継続可能な対策・運用の手順を解説します。
1. 情報セキュリティ10大脅威2026とは?概要と主な傾向
自社のセキュリティ対策を検討するうえで、まず押さえておきたいのが最新の脅威動向です。ここでは、情報セキュリティ 10 大脅威 2026 の選定プロセスや、 2026 年版で特に注目すべき脅威の変化を整理します。
情報セキュリティ10大脅威2026の基本概要
情報処理推進機構( IPA )が公表する「情報セキュリティ 10 大脅威 2026 」は、 2025 年に発生した社会的影響の大きい情報セキュリティ事故や攻撃事例をもとに、 IPA が脅威候補を選定し、情報セキュリティ分野の専門家約 250 名で構成される「 10 大脅威選考会」の審議・投票を経て決定されたものです。
なお、「情報セキュリティ 10 大脅威」には「組織」向けと「個人」向けの 2 種類がありますが、本記事では、企業の情報システム運用に関係する「組織」向けを対象に解説します。
2026年版で注目すべき脅威の変化
「ランサム攻撃による被害」は 11 年連続で組織向け脅威に選出され、 2026 年版でも1 位となりました。依然として企業が最も警戒すべき脅威です。
また「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」も引き続き上位に位置しており、自社単体のみならず、取引先や委託先を含めたサプライチェーン全体の対策強化が求められます。
さらに、今回は「 AI の利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選出されました。 AI の悪用による巧妙な攻撃だけでなく、利用に伴う意図しない情報漏えいや、検証不足のまま生成結果を利用するリスクが懸念されます。 AI の普及に起因する攻撃の自動化や高度化への警戒が強まっています。
引用:情報セキュリティ10大脅威 2026 | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
2. 自社にとってのリスクをどう整理するか
10 大脅威はあくまで全体的な傾向であり、そのまま自社に当てはめても効果的な対策にはつながりません。本章では、 10 大脅威を自社環境に落とし込み、リスクを洗い出す方法と優先順位の決め方を解説します。
自社環境に基づくリスクの洗い出し方法
まずは業務フローを整理し、どのシステムやデータの流れが停止すると業務継続に支障が出るかを明確にします。次に、顧客情報や会計データ、社内システムなどの重要資産をリスト化し、それぞれにアクセス経路や想定される攻撃経路を紐づけます。
さらに、外部委託先との接続点も洗い出せば、見落とされがちな侵入口を可視化することが可能です。
優先順位を決めるための考え方
自社のリスクを洗い出したら、以下の 4 ステップで優先順位を整理すると判断がスムーズです。
ステップ1:脅威を「発生してほしくない順」に並べ替える
抽出した脅威は、自組織にとって「発生してほしくない順」に並べ替え、①②③…と優先順位を付けます。順位付けは想定被害額の大きさを基本としつつ、事業上の優先度や経営方針も踏まえて総合的に判断することが重要です。
また、被害額の算出にあたっては、システム所管部門だけでなく、経理部門など複数部門の協力を得ながら判断することが望まれます。
ステップ2:対策候補を整理する
並べ替えた各脅威に対し、有効と考えられる対策候補を列挙します。その際、対策を「被害予防」「早期検知」「事後対応」といった目的別に分類し、脅威と対策候補の関係を表形式で整理することが重要です。
| 対策 | 脅威① | 脅威② | 脅威③・・・ | |
|---|---|---|---|---|
| 被害予防 | 対策候補1 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ |
| 対策候補2 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | |
| 早期検知 | 対策候補3 | ⚪︎ | ||
| 事後対応 | 対策候補4 | ⚪︎ | ⚪︎ | |
ステップ3:対策候補の実施状況を確認し、今後の対策内容を整理する
各対策候補は、すでに実施済みのものを除外したうえで、「一部実施」や「未実施」の項目から優先的に検討を進めます。
その際は、以下の 3 つの観点から対策候補を選定することが重要です。
- 実施に必要な予算・時間・機器性能などが十分か
- 実施しなかった場合の被害は何か、それは許容可能か
- 対策候補を実施する代わりに、別の方法(例:特定の機能をオフにする)で代替可能か
ステップ4:対策に優先順位を付け、実施予定日を明確にする
実施を決定した対策候補に優先順位を付け、実施予定日を明確にします。以降は実施計画に従い、対策状況を管理しましょう。
サイバー攻撃の脅威は常に進化しており、自組織の状況も変化するため、毎年「 10 大脅威」が公開されるタイミングなどを活用し、定期的に脅威と対策の優先順位を見直していくことが重要です。
3. セキュリティ対策の本質は「基本運用の徹底」
セキュリティ対策は、高度なツールを導入すれば完了するものではありません。ここでは、対策を継続させるための「仕組み化」と、その土台となる「情報セキュリティ対策の基本」という 2 つの観点から、対策の本質を解説します。
「仕組み化」しなければ運用は続かない
セキュリティ対策で最も重要なのは、個人の意識や一時的な対策ではなく、「仕組みとして継続できる状態」をつくることです。
どれほど高性能なツールを導入しても、運用ルールが曖昧で担当者任せになっている場合、時間の経過とともに形骸化してしまいます。特に兼任の担当者が多い中小企業では、日常業務に追われてセキュリティ運用が後回しになりがちです。
そのため、チェックリスト化や自動化、定期点検といった「仕組み化」が欠かせません。
情報セキュリティ対策の基本
セキュリティの基本対策とは、高度な専門技術ではなく、「認証管理」「更新管理」「バックアップ」「アクセス制御」といった基礎的な管理の徹底です。
実際、多くの重大インシデントは高度なサイバー攻撃ではなく、パスワードの使い回しやソフトウェアの未更新など、基本的な不備から発生しています。したがって、セキュリティの本質は難しい対策の導入ではなく、「当たり前の管理を確実に継続すること」にあります。
4. 具体的な対策と実務でのポイント
セキュリティ対策は情報システム部門だけで完結するものではなく、「全員参加型」の取り組みが前提です。メールの誤送信や不正アクセスの多くは現場ユーザーの操作に起因するため、全社員が当事者として関与する必要があります。
| 基本対策 | 主に対応する脅威 |
|---|---|
| アカウント・認証管理 | 不正アクセス、フィッシングによるアカウント乗っ取り、情報漏えい |
| 脆弱性対策 | 脆弱性を悪用した攻撃、ランサムウェアの侵入 |
| ログ監視・インシデント対応 | 侵入の早期検知、内部不正、被害拡大の防止 |
| バックアップ | ランサムウェアによる被害(データの暗号化) |
アカウント・認証管理の強化
MFA (多要素認証)の導入、強固なパスワードポリシーの設定、認証試行回数の制限を徹底することで、不正ログインのリスクを低減できます。特に、 ID とパスワードのみの認証はフィッシングや情報漏えいリスクに対して脆弱なため、可能な限りすべてのクラウドサービスや重要システムへ MFA を適用しましょう。
また、組織内では最小権限の原則に従ってアカウントを管理し、退職者や異動者の不要アカウントを速やかに削除できる運用体制を整備する必要があります。その一環として、定期的なアカウント棚卸しを実施し、「誰が・どのシステムに・どの権限でアクセスできるか」を可視化することが不可欠です。
ソフトウェア・機器の脆弱性対策
まず、利用中の機器やソフトウェアを一覧化して定期的な棚卸しを行い、更新漏れやサポート切れ製品の使用を防ぎます。さらに、ベンダーの公式情報から常に脆弱性情報を収集し、既知のリスクを放置しないことが求められます。
ただし、既存システムとの兼ね合いもあるため、すべてのパッチを即時適用するのではなく、 CVSS スコアなどを参考に自社環境での影響度を評価し、優先順位を付けて対応することが現実的です。
ログ監視とインシデント対応体制
セキュリティ対策は「侵入させない」防御だけでなく、「侵入されたあと」を想定する視点が重要です。アクセスログや認証ログを定期的に監視し、不審な挙動を早期に検知できる体制を整備しなければなりません。
また、インシデント発生時の対応フローを事前にルール化しておくことで、被害の拡大を抑えられます。必要に応じて、侵入後の脅威を検知・防御する EDR などのツール導入も検討すべきです。
バックアップと復旧体制の整備
ランサムウェアは、マルウェアによってデータを暗号化し、復号と引き換えに金銭を要求する攻撃です。近年は暗号化に加え、窃取した情報の公開を盾に脅迫する「二重脅迫型」が主流となっています。
バックアップは暗号化からの復旧には有効ですが、情報漏えい自体は防げないため、認証・アクセス制御やログ監視を組み合わせた多層的な防御が必要です。
バックアップ運用の基本は「 3-2-1 ルール」であり、データのコピーを 3 つ保持し、 2 つの異なる媒体に保管し、そのうち 1 つは外部(オフサイト)に保管するという考え方です。クラウドとオンプレミスを組み合わせた多層構造にすれば、ランサムウェア感染時にバックアップデータまで暗号化されるリスクを低減できます。
5. なぜセキュリティ対策は継続できないのか
多くの企業がセキュリティの重要性を理解しながらも、対策を継続できずにいます。ここでは、対策が続かない背景にある 3 つの構造的な要因を整理します。
属人化による運用の限界
セキュリティ対策を継続できない最大の要因は属人化です。特定の担当者に依存している環境では、その人の業務負荷や異動・退職を機に運用が停止するリスクが生じます。引き継ぎが困難なため、対応品質のばらつきも避けられません。その結果、対策レベルが低下し、組織としての継続性が失われてしまいます。
優先順位の低下とリソース不足
日常業務が優先されるなかで、セキュリティは後回しにされやすい領域です。特に、目に見える被害が発生していない状況では緊急性が低いと判断され、対策が先延ばしになる傾向があります。
また、人員や時間が限られるなかでは開発や顧客対応が優先され、セキュリティに十分なリソースを割けないケースも珍しくありません。結果として、セキュリティ対策の必要性を理解しつつも実行に移せない状態が固定化します。
経営層による予算の制約
セキュリティ対策は直接売上を生む施策ではないため、経営層の投資判断が後回しになりがちです。
しかし、ひとたびインシデントが発生すれば、業務停止や信用失墜、対応コストなど甚大な損害を被るおそれがあります。この「見えにくいリスク」と「見えやすいコスト」のギャップが意思決定を困難にし、対策の遅れを招く要因です。
6. 自社でどこまで対応すべきか(内製 vs 外部)
セキュリティ対策の継続を妨げる属人化・リソース不足・予算制約という構造的な要因は、自社だけで解決することが難しいケースも少なくありません。
内製で対応すべき領域
一般的な企業では、社内ルールの策定やアカウント管理などは内製で対応することが適しています。
また、リソースに余裕がある場合は、社員教育などのスキルアップ施策や、即時対応が求められる領域も内製化することで、柔軟かつ迅速な運用が可能となります。
外部委託が有効な領域
外部委託が有効なのは、高度な専門性や 24 時間 365 日の継続対応が求められる領域です。
例えば、 SOC による常時監視や EDR 監視、脆弱性診断、ペネトレーションテストなどは、社内の人材・コスト面から内製が困難なケースが多くあります。外部の専門知見を活用することで、検知精度や対応速度の向上につながるでしょう。
特にインシデント対応は、夜間や休日の監視が手薄になりがちで、アラートの振り分けや原因特定にも工数がかかります。運用代行を活用すれば、常時監視、専門アナリストによる迅速な分析、フォレンジック(インシデントの原因や影響範囲を調査・分析する手法)支援などを受けることが可能です。
ハイブリッド運用の考え方
「内製+外部委託」を組み合わせたハイブリッド運用も現実的な選択肢です。
社内ではルール策定や判断、最終的な意思決定などを担い、 24 時間監視や高度な分析、インシデント対応などは外部へ委託します。これにより、コストとセキュリティレベルのバランスを最適化することが可能です。
7. まとめ
「情報セキュリティ 10 大脅威 2026 」はあくまで判断の起点であり、自社に最適な対策は環境ごとに異なります。自社のリスクに応じた優先順位付けと、継続可能な対策の実行が重要です。
しかし実際には、「何から始めるべきかわからない」「運用が回らない」といった課題に直面する企業も少なくありません。そこで、専門家の支援を活用し、自社に適した現実的なセキュリティ体制を構築するアプローチが有効です。
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